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【​大賞】

鍛銀振り出し 『月夜の浜辺』

植田 千香子(京都府)

ウニの殻はなぜそんな不思議な形をしているか、それにはちゃんと理由がある。だからウニにとっては全然不思議なことじゃない。理由があってその形になっていることに改めてきづくと、身近にある様々な造形もより面白く感じてくる。

作品のテーマを求めて浜辺を歩いていると、人間が作り出した様々なゴミも見かける。出来ればきれいな海であってほしい。そんな願いを込めながら制作した。

植田千香子 Profile

京都生まれ。大学卒業後、父親である植田参稔の元で金工を始める。一枚の金属の板を金鎚でたたいて形を作る「鍛金」という技法で制作している。日本伝統工芸近畿展、日本煎茶工芸展、伝統工芸日本金工展などで受賞。自分は何が作りたいのか、何ができるのか、考えながら金属に向き合っている。 

【​講評】

前﨑信也氏

美術工芸研究家・京都女子大学教授

ご自身の好きな浜辺での貝殻拾いと、ムラサキウニの殻と、海岸のゴミ問題が込められているということでした。とても現代的なテーマを含みながら、不思議な造形と、それを実現する技術力が合わさっている作品です。
技術が高く、見たことがなく、使ってみたいという、この展覧会の対象として本当にふさわしい作品です。おめでとうございました。

佃 梓央氏

煎茶家・一茶庵宗家嫡承

グロテスク!そんな印象からこの作品にのめり込んでいきました。審査員としての私のよくないところで、この公募展「ティー・エレメント公募展」の「ティーエレメント」をどこか頭の片隅で「茶道具」「煎茶道具」と翻訳してしまっていて、日本の茶道具が憧れ続けた中国陶磁器・朝鮮陶磁器の美しさ、端正さに連なる何かを見つけよう!見つけよう!としすぎてしまっているようです。

しかしそれに疑問を呈し、目を変えてくださったのがこの作品。ウニをモチーフにしたこの作品に、生物が自然界に存在するグロテスクな生々しさを発見することができ、また作家さんご本人が直接自然と対峙し細やかに対話する姿勢が目に浮かびました。

ティーエレメントとはお茶を楽しむための「要素」のこと。逆に言うと、お茶は様々な作品が集まり取り合わされる中で楽しまれます。決してその作品一点だけでお茶が楽しまれるわけではありません。

他の「要素」との掛け算によっていかに大きな数を生んでいけるか。その目線でこの作品を見たとき、今世の中にある処理しきれないほどの色、形、画像、映像、情報・・・の氾濫の中で、生物の持つグロテスクさや生々しさが秘められたこの作品が従来の「道具」ではできなかった掛け算の項(「要素」)になりうるのではないかと考え、大賞に推しました。

この作品のタイトル『月夜の浜辺』。ここまで抒情的にまとめなくても…、と一言を添えて。ご受賞おめでとうございます。

中山福太朗氏

​茶人・会社員

高い技術力はもちろんのこと、その技術で何が作れるだろうか、という目を持った状態で海岸を歩いていたからこそ、ウニの骨格を拾えたのでしょう。「拾えた」という事実は、偶然ではありません。

海岸の清掃は、コロナ禍により仕事に大きな影響があったためにできた機会であった、というのは植田さんの言です。そういった背景がきちんと説明されていたこともとても良かったですし、かつその内容からは、今現在、自身の身に起こっていることにきちんと向き合う姿が透けて見え、結果モノ自体の説得力を増しました。

作品自体に欲を言うならば、蓋のデザインです。ウニの形状を生かすようなものを、もう少し慎重に検討できたのではないかと思います。