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【​入賞】

鹿角細工 『余光』

北村 隆浩(神奈川県)

鹿の角と人の指が融合するような茶杓を創作いたしました。それは道具と装身具が融合した形。この茶杓が自由な価値観を形として紡いでいく〈element〉になればと願っております。

大地は万物を載せている輿という意味から「坤輿」といたしました。

北村 隆浩 Profile

1982年生まれ。工芸、デザインなど境界なく表現を行う。世界工芸コンペティション、第3回世界工芸トリエンナーレ等入選。第2回ティーエレメント公募展大賞、工芸都市高岡2021クラフトコンペティション優秀賞(寺山紀彦賞)受賞。

【​講評】

前﨑信也氏

美術工芸研究家・京都女子大学教授

昨年に引き続き、これ以上ないと言えるくらいに存在感のある作品です。工芸は変化させるということが難しいので、同じ素材・同じ技術を使った作品を評価するとなると、どうしても難しくなってしまいます。

しかし、本作品は、昨年の大賞受賞作品と比べて完成度としては上がっていますし、コンセプトも魅力的でした。あとは、北村さんがこの作品を制作されていることについての意味や価値がはっきりと見えると、さらに使い手との共感の力が生まれるでしょう。おめでとうございました。

佃 梓央氏

煎茶家・一茶庵宗家嫡承

昨年に引き続きご受賞となりました。
鹿の角を素材にした「坤輿(こんよ)」というタイトルの作品。「鹿の角」という素材と「坤輿」という言葉との組み合わせは、実は極めて中国思想的な発想で、文人茶(煎茶)の世界の中で非常に使いやすく、もう今すぐにでも茶会に登場していただけそうな作品でした。

「坤輿」とは中国古典『易経』を典拠にする言葉で「地球」とか「大地」を表します。中国の明時代末期、西暦1602年にイタリア人宣教師マテオ・リッチが作成した漢訳版世界地図が北京で刊行されましたが、その世界地図は『坤輿万国全図(こんよばんこくぜんず)』という名で知られ日本にも輸入されています。「坤輿」という言葉は広い大地、世界全体、地球全体を表し、かつ大地から湧き上がる「気」を中国思想では生命の根源のように考えていますので、まさに「坤輿」とは世界の基盤そのものであり、エネルギーの根源そのものなのです。

「鹿の角」も実は同じようにエネルギーの根源のように中国思想のなかでは扱われます。中国の後漢時代ごろには成立していたと言われている中国最古の薬物書『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』以来、鹿の角は取り扱われていて、その中で「不老不死の薬」という位置づけで出てきます。「鹿の角」は「生命」のエネルギーそのものなのです。

「鹿の角」素材の作品に「坤輿」というタイトルをつけている。本当に歴史的な必然性がありました。しかし、思想や歴史に裏打ちされたモチーフだからこそ(さらに今回は二回目のご受賞だからこそ)私の眼が厳しくなってしまいます。それだけのテーマに耐えうる作品であったかどうか。もうひと工夫、もうひと展開欲しいなぁ、というのが私の意見です。

鹿の角素材ではありませんが、象牙をつかった作品で、台北の故宮博物院に収蔵されている有名な作品があります。(参考; https://travelart.hatenablog.com/entry/taiwankokyu)中国の清時代に親子三代かけて制作されたという作品で、象牙をくり抜いた作品です。変態的な執念、細微への異常な執着、完成品の気持ち悪いといっても差し支えない造形、それでこそ表出される宇宙観。

もちろん「これを作れ!」ということではありませんが、せっかくの素材、せっかくのテーマを扱うからこそ、現状の作品よりも何か生命や大地のエネルギーを造形化するための工夫を期待してやみません。あるいはあえて逆にもっとシンプルにスマートに日本人らしく造形化するか・・・。(東京五輪の開会式と北京五輪の開会式の演出の違いのように⁉)さらなる工夫と展開を次回作品も楽しみにしております。二年連続のご受賞おめでとうございます。

中山福太朗氏

​茶人・会社員

昨年、北村さんが大賞を受賞された、鹿の角を素材とした茶杓と同じジャンルで今年も応募するというハードルの高さがあったものの、入賞させざるを得ませんでした。その力が作品にありました。

デザインは昨年より洗練されたと感じました。それは今年の作品に加えられたワン・アイデアである「手に装着できる」という機能が、鹿骨の装飾品としてのニュアンスを引き出したことで、茶杓の匙としての機能から少し離れることができたからでしょう。素材とアイデアの相性が良かったのだと思います。また、実際の茶席で使う際には、この道具が入ることで玉突き事故のように様々な変化(亭主側の他の道具の取り合せ、客側の反応)が引き出されることが想像されます。単純に使ってみたいなと思いました。

ただ、茶杓の櫂先部分のデザインは、よりよいものがあると思います。

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